「アスリート陶芸家」として、異業種とのコラボ企画を展開する新タイプの陶芸家
山田翔太(やまだ しょうた)さんはあらゆる面で、既存の陶芸家と一線を画する陶芸家だ。
本人は「アスリート陶芸家」(アスリートの美意識を持った陶芸家)を自称するが、単に「アスリートで陶芸家」という枠をはるかに超えた活動ぶりだ。
昼は業界トップの財閥系大手企業で働くサラリーマンだ。副業が認められているにしろ、30代で早くも責任ある肩書で、仕事はかなりハードな筈だ。
それでも寸暇を惜しんで共同工房で作陶を続けている。
週末はたぶん奥様とお子さんを連れてだろうが、郊外でハードなトライアスロン(水泳・自転車・マラソン)の練習にも打ち込んでいる。まさにスーパーマンだ。
中高一貫校に通った高校時代に授業で陶芸に出会い、ラグビーに明け暮れた大学時代を除き、今まで作陶してきた。
陶歴は10年だが、年齢は31歳と若い。これからの活躍が本当に楽しみだ。
銀座三越で開かれた“Tea Ceremony for Athletes”に参加した彼は、スポーツや茶道をはじめとする異業種とのコラボに関心が強い。
今後は様々な分野との連携に力を入れ、新商品の販売面で積極的にコラボしたいという。
「一人ぐらい私みたいな陶芸家がいても、いいのではないですか」―彼は既存の陶芸家のイメージにハマらない新しい陶芸家のスタイルを確立しようとしている。
「いろんなことにチャレンジしたくても1歩が踏み出せないサラリーマンに、自分の前進する姿を見てほしい」とも言った。
働き方改革が議論されるなか、彼の二刀流は多くの若者の模範となる。
「アスリート陶芸家」として陶芸の新境地を開拓するとともに、令和時代の新しい生き方を示してほしい。
アスリート陶芸家 山田翔太 5つのこだわり
- 完全一点ものにこだわる。大量生産はしない
- そのときの感性をうつわに込める。一瞬の美を追求
- 変化を求め作風は定めない。様々な価値観と積極的にコラボ
- 使い手目線のうつわの提案。個展での交流を重視する
- 一番のサポーターは家族。感謝の気持ちをいつも忘れない
陶芸との出会い
山田翔太さんは千葉県松戸市生まれ。
中学2年の時にラグビーをはじめ、高校ではキャプテンで、スクラムハーフ、スタンドオフなどバックスのポジションは何でもこなすオールラウンドなラガーマンだった。
そのころからマルチな才能はすでに発揮されていたのだ。彼は高校1年生の時に、授業で陶芸と出会った。
陶芸の先生が元大学のラガーマンだったことから陶芸は印象深いものになった。大学時代は体育会ラグビー部に属し、ラグビー漬けの毎日を過ごした。
社会人になり陶芸をすぐに再開したので、陶歴は通算10年になる。仕事外では陶芸、トライアスロン、茶道に打ち込んでいる。相変わらずのマルチぶりだ。
陶芸と異業種コラボという新しいスタイル
彼には師匠もいなければ、公募展に出展する気もない。陶芸家としての既存ルートは頭になく、まったく新しい陶芸家のスタイルを模索している。
彼の関心は「作り手と使い手の目線がずれていないか」にある。時間と経費をかけた薪窯の作品に憧れるが、その分値段も高くなる。
丹精込めた作品だから高くても仕方がないという姿勢ではなく、喜んでもらえるものをどう売り出すかに力を注いでいる。
彼の強みは会社員であり、収入が確保されていることだ。「自分はいま、身銭を切ってでも様々な分野(特に意欲的な中小企業)とコラボしたい。
陶芸以外に収入源があるのが自分の長所。報酬内容にこだわらなければ、中小企業でもコラボに乗りやすいのでは?」という姿勢だ。
今後もできる限りサラリーマンを辞めずに、今の二刀流スタイルを追求する考えだ。
陶芸家の新しいスタイルを模索
百貨店でサラリーマン陶芸家が出展するケースは珍しい。
銀座三越での企画“Tea Ceremony for Athletes”は、遠州流茶道家元の次女小堀宗翔さん(ラクロス選手でもある)から、「アスリートの美意識でスポーツをイメージした抹茶茶碗を中心とした茶道具を3か月後に150個作ってほしい」と注文されたのがきっかけ。
毎晩仕事を終えてから、工房で作陶を続けた。
彼はアスリート陶芸家として、「アスリート陶芸家がつくる一点もののうつわ」「アスリートの美意識をうつわに込める唯一の陶芸家」「スポーツとのコラボレーションという未知の領域への挑戦」を標榜している。
また彼は「家族のように馴染み、日常使いしやすいうつわ」作りを目指し、自分の作風は変化の途中にあり、まだ固めたくないと言う。
様々な分野とのコラボ企画の趣旨は、たとえば新商品の販売で商品とマッチしたうつわを作ることで、お互いウィンウィンの関係を築くことだ。
だからこういううつわが欲しいというオーダーが入ってから作るスタイル。作風を決めないからできる柔軟な発想だ。まさに「コラボ陶芸家」という新境地だ。
フランス各地で陶芸展を開催
「何故うつわが売れないのか」彼の解決策の一つが、買い手に寄り添うことだ。
個展開催中、彼は時間を作っては在廊し、顧客に丁寧に対応していた。使い手との間に距離を置かない考えを実践している。
彼は毎年フランス各地でも個展を開催している。
今年も春のマルセイユ(区役所、日本料理店)、ボジョレー(公営施設)、郊外にあるルールマラン城での開催が決まっている。
彼のすごいところは、これらをすべて自費でやっていることだ。旅費、滞在費を入れればもちろん赤字だ。
現地での告知、設営はフランス人サポーターが手弁当でやってくれるという。
彼の熱意と彼の作品のファンである現地サポーターが、彼の心意気に共感し、応援してくれているのだ。彼らも他に仕事を持っているからできるボランティアだ。
来年もストラスブール、ニース、パリでの個展を予定している。日本国内でのコラボ企画だけでなく、フランス以外の海外でも個展を考えている。
もともとはフランス好きの奥さんの影響で、フランスが好きになった。奥さんが山田さんの最初で最大のサポーター。
彼女の理解と支援で二刀流が続けられているのだ。将来国内とフランスで窯を持つのが、ふたりの夢だ。