プロの陶芸家にインタビュー~陶芸家 船越保さん【陶芸を語る】

陶芸家インタビュー
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自然と対話し、自然をそのままくりぬいたような造形美を追求する孤高の陶芸家

船越保(ふなこし たもつ)さんが作るうつわの特徴の一つが、その流れるような造形美にある

ながく工業デザイナーとして活躍した経験から、自然に身に着いたものと思われる。

作品は大きく信楽焼きと黒陶に分けられる。自然を愛し、自然と日々対話を繰り返す彼の姿勢からか、作品には自然をそのままくり抜いたような花入れが多い。

自己を主張するうつわではなく、周囲と調和するうつわづくりを目指している。

陶芸家 船越保5つのこだわり

  1. 花器と活ける草花をケンカさせず、互いに引き立たせる
  2. うつわづくりのイメージは、自然を切り取る
  3. 非効率でも薪窯焼成で、自然釉で仕上げる
  4. 日々の山野散策に作陶のヒントあり
  5. 私欲を捨て、穏やかな心で土と向き合う

陶芸家になるまでの道のり

40歳を過ぎてから陶芸を始めたそうですが、それまでは何をされていたのですか?

大学入試の直前で父が亡くなったため、進学を断念して地元の酒造会社に就職しました。

22歳で結婚し3人の子供を養うため、商品企画の会社に転職し、車の部品からコーヒーメーカーまで様々な商品の通販企画を手がけました。

その後、知人と数人でモータースポーツ用バイクやクルマのデザイン、モデリングをする会社を立ち上げましたが、3年で事業に失敗、最終的に自分一人がすべての借金を背負うことになってしまいました。

フリーでクルマの造形デザインの仕事を続け、何とか40歳で借金を完済することができました。そのころ出会ったのが、やきものです。

若いうちは画家志望で、音の世界を絵画で表現したいと考えていました。

あの時偶然やきものに出会い、心の片隅に眠っていた芸術への想いがよみがえり、すぐに陶芸にのめり込んでしまいました。

陶芸家 船越保さんの個展 Carbon Aromaが、八丁堀プラグマタで開催された
陶芸家・船越保さんの個展“ Carbon Aroma” が、東京都中央区八丁堀のプラグマタギャラリーで開催された。船越さんの作品は、信楽焼と黒陶が二つの柱ですが、ギャラリーでは黒陶による作品が出展された。鉄網を使った黒陶の置物や陶額など、渋さの中にもチャレンジングな作品の数々に心惹かれました。

信楽焼との運命的な出会い

それは都内で開催された「京都で発掘された古信楽焼きの展示会」でした。そこで見た古いやきものの造形がずっと頭から離れませんでした。

ある日バイクで八王子山中をツーリングしていたときに偶然薪窯を見つけ、そこで作陶する陶芸家に声を掛けさせていただいたのが、すべてのはじまりでした。

電気窯、ガス窯にはない薪窯の持つ魅力に引かれ、いつしかその陶芸家のもとに通い続けました。

40歳を過ぎてから陶芸を始めたこともあり、気に入った調合にたどり着くまで長い経験と年月がかかる釉薬は使わずに、薪の炎や灰で色合いや風合いを出す自然釉を選びました。

最初は仕事をしながらの作陶でしたが、45歳で陶芸一本に専念することにしました。

毎日ろくろを回すのが楽しく、まるで前世でも焼きものづくりをしていたのではないかと感じました。

【東京で穴窯体験】『スカーレット』の穴窯を体験してみませんか⁉
NHK連続テレビ小説「スカーレット」で紹介された穴窯。東京でこの穴窯で作陶する数少ない陶芸家をご紹介します。東京都八王子市の陶芸家・船越保さんと町田市の陶芸家・勝田友康さんのお二人です。一度見学してみませんか。陶芸体験もできます。土の感触はとても気持ちがいいですよ。

薪窯焼成にこだわる

電気窯やガス窯を使う陶芸家がほとんどのなか、穴窯で焼成する作家は珍しいですね。穴窯は焼き上げるのに何日もかかり、手間と経費がバカにならないのではないですか。

確かに効率的ではありませんが、自然釉にはそれだけの価値があります。仕上がりを完全にコントロールできませんが、あらかじめ予測し、偶然の美を演出するのです。

炎や灰がもたらす偶然を誘発するため、あれこれと工夫するところに薪窯の醍醐味があります。

炎が直接、土肌に当たり、薪の灰が降りかかって自然釉となり、予想外の効果が生まれます。いにしえの茶人はそれを「景色」と呼び、「わび・さび」として評価しました。

薪窯には登り窯と穴窯があります。登り窯は部屋をいくつも連ねた長い窯ですが、穴窯は部屋がひとつで、炎が焚き口から煙出しまで一直線に流れます。

5日、10日と長く焼成する人もいますが、わたしは集中力を高め3日間で焚き上げています。

信楽焼と黒陶が作品の2本柱

信楽焼きはやきものを土器、陶器、炻器、磁器と分類すると、炻器(焼き締め)に当たります。

焼成温度を高くできるアカマツの薪で1250℃で焼き上がるので、陶器のように釉で器を覆わなくても水は漏れづらくなります。

黒陶は土器に近いです。800℃から900℃で真っ赤になった状態で窯から引っ張り出し、おがくずの中で一気に炭化させます。

成形の際に器の表面をピカピカに磨きあげるのは、カーボンを土肌に入ることで水漏れを防ぐためでもあります。

【東京で穴窯体験】陶芸仲間で、スカーレットの穴窯を満喫
東京都八王子市川口在住の陶芸家・船越保さん所有の穴窯(自在窯)で、船越さん主宰の薪窯塾の仲間が、年2回窯焚きをしています。NHKの連ドラ『スカーレット』の主人公と同じく、信楽焼を焼いています。私も信楽焼の持つ緋色の肌合い、緑のビードロ釉、渋く深い灰被りの青や紫の焦げに魅了された一人です。信楽焼は「炎の芸術」です。

 信楽焼も黒陶も普通の陶器と比べ保湿力があります。器自体が水を吸い、器がしっとりするからです。

特に黒陶は黒い釉薬を使った器とは違い、活けた花がなかなか枯れませんね。挿した草花が長持ちするのは、器自体がしっとりと水を吸い込み、保水力があるためです。

つまり器の中の水が外気と呼吸し合うことで、水がいつも新鮮で腐りづらいということかもしれません。

心がおだやかになる観音像、お地蔵、女性像

お地蔵さんを作られるのは珍しいですね。素焼きに絵付けをした女性像もありますが。

特に信心深いわけではないのですが、仏像が昔から好きで観音さまやお地蔵さんを見よう見まねで作っていました。

ある窯焚きで、棚が崩れかけたときに観音さまの肩にかかって崩れなかったことがありまして。

偶然にしても縁起が良かったので、それ以降の窯焚きではいつも作陶した仏像を入れるようにしています。

女性像はもともと絵を描くのが好きだったので、焼いた陶器に絵を描くように色付けをしています。

作品の造形やデザインが個性的

スタイリッシュな造形にもかかわらず、奇抜なデザインというわけでもなく 心を和ませる造形ですね。

クルマのデザイン作りに長くたずさわっていたせいか、成形する際に無意識にうつわのラインに重点を置いています。まさに造形美は、私のこだわりのひとつです。

花入れを多く作るようになったのは、くるまのデザインの仕事をしていたためでしょうか。

また茶道具をつくる陶芸家が多いなか、私が花器を多く作るのは自然の中で咲く花が好きなためかもしれません。

クルマのデザインをつくるよりやきものはより以上、形やフォルムを自由につくれるのが魅力です。

  無量庵と自在窯命名の意図は?

無量庵と自在窯を命名した理由は?「無量なれば日一日を、坦々と積み重ねてぞ物の現る」との思いから命名しました。

作陶する際の心構えとして、やきものが主張しすぎないよう、まわりとフィットする作品作りを心掛けています。

挿す花と喧嘩して、目立ちすぎるうつわは作りません。

花器は草花が入って完成するもので、単体としての美は追求しません。焼締められた土の塊に、ひと挿しされた一輪の生ある植物、その調和の美に関心があります。

InstagramやFacebookにも投稿

投稿を始めて3、4年になりますが、毎回300から400人の方から評価をいただいています。半数以上が海外からのアクセスです。朝の山野散策で摘んだ花を遊び心で活けています。

毎日一回アップしています。生け花を習っていないので流派はありませんが、「いいね!」と言ってくださる方がいらっしゃるので続けています。

作陶以外にもご趣味が多いですね。描画、山歩き、ロードバイク、フルート、篠笛などを楽しくやっています。

師匠はいませんし、会派にも属していませんが、買っていただけるお客様の評価を作陶の目安にしています。

賞を受けた作品だからとご購入いただくのではなく、お客様自身が気に入っていただけることが何より嬉しいです。

自分はろくろがうまいんだという作家さんが近くにいましたが、その作品は私から見て魅力がないものでした。

陶芸家として同じものは作りたくない、常に新しい作品を創造する気持ちが強いです。

入選したことで10年同じような作品を作っている作家さんがいらっしゃいますが、作風は変わっていくのが普通で、作風を縛られたくないという気持ちがあります。

Tamotsu Funakoshi
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