プロの陶芸家にインタビュー~陶芸家 濱住真至さん【陶芸を語る】

陶芸家インタビュー
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料理を活かすうつわ作りを探求し、やきもの新ブランドも立ち上げた二刀流陶芸家

濱住真至(はますみ まさし)さんは、生活の中にほっこり馴染むようなうつわ作りを目指している。

決して派手ではないが、料理を引き立たせる・・・・そんなうつわ作りが彼の持ち味だ。

他方で、彼は地元の土を100%使った新たなやきものブランド「稲城焼」(Inagi-ware)を開発し、彼独自のやきものブランドの育成、普及に努めている。

彼の陶芸家としてのスタイルは、自分がイメージした作品をただ作るだけでなく、使い手の要望を極力取り入れた、いわばオーダーメイドのうつわ作り。

自分が表現したい作品を作り個展や陶器市で販売する作家は一般的だが、顧客のニーズを取り入れながらも自己表現の作品を作り上げ販売する手法は、実は意外と珍しい。

彼は常に顧客の要望に沿いながら、彼だから表現できる新たなうつわ作りを模索している。

陶芸家 濱住真至5つのこだわり

  1. 料理を引き立たせるうつわ作りを常に心掛ける
  2. 割烹、居酒屋、カフェ、家庭など、使われ方に合ったうつわ作りを探求する
  3. 使い手の要望を取り入れた、オーダーメイドなうつわ作りを極める
  4. 独自ブランド「稲城焼」を全国、さらに世界へ向けて発信する
  5. 釉薬は独自の調合にこだわり、多種多彩な色づくりを追求する

なぜ陶芸家に?

濱住真至さんは1977年生まれ。生後3か月で神奈川県川崎市から隣接する東京都稲城市に引っ越して以来、ずっと稲城で暮らしている。

現在、市内坂浜で自然に囲まれた陶房とそれに隣接するギヤラリー「濱陶器」を主宰している。

陶芸を始めたきっかけは、1997年20歳の時。自身が心の病に苦しむ中で、リハビリとして土と触れ合い癒されたことによる。

彼はそれを契機に陶芸家・川下善靖氏に師事し、うつわ作りの基礎を学んだ。

同時に陶芸教室の助手を務めながら、作陶の腕をあげていった。同時に画家・小根山幸子氏にも師事し、デザインとしての絵画も学んだ。

5年後の2003年からは、新たに陶芸家・花原ひろ子氏に師事し、陶器作りの最初の工程から販売、個展の開き方など陶芸家として必要なすべてを学んだ。

陶芸家として独立するまでの10年間、生活を支えるためにアルバイトや正社員として会社で働きながら、作陶を続けた

公募展で高い評価を受けたのがきっかけ

陶芸家としての独立を決意したのは、2012年から」公募展に出展しはじめ、『青緑彩壺』と『黒天目金彩壺』『黒心』が入選したことがきっかけだった。

翌年開催の陶芸財団展で『地球憤怒』が優秀賞に選ばれ、また全陶展で抹茶茶碗の『軌跡』が入選するなど、濱住さんの作品は髙い評価を受ける。

料理や花など相手を活かすうつわ作りに関心あり

作った作品を個展や陶器市で販売する作家が多い中、彼は個展をあまり開かない。

彼は出来上がった作品を個展を開いて販売するのではなく、買い手の好みに合わせて受注生産する「陶器のオーダーメイド」方式をとっている。

また陶房に隣接して個人の常設ギャラリーを持っているのが彼の強みだ。

ギャラリーを訪れた個人、法人から直接作品を手に取りながら要望を聞くことができるのが、陶芸家としての新しいスタイルだ。

このギャラリー併設というスタイルが、彼のオーダーメイド販売方式を可能にしている。

オーダーメイドのうつわ作りが真骨頂

彼の陶房「濱陶器」へは、割烹料理店主、居酒屋店主、レストラン経営者など法人からの注文が多い。

その理由は彼がニーズに応じて作陶する「オーダーメイド方式」を取っているからだ。

自分の作風に合わせて作陶する作家は多いが、彼のように顧客からの注文に合わせて作る陶芸家は多くない。

注文を受けた作品の多くには基本的に対応力のある信楽の土を使っている。

どんな料理に使われるかを念頭に、うつわの形や使い易さ、色の組み合わせを考えている

地元の土を100%使った「稲城焼」を商標登録

彼の陶芸家としての一つの夢は、生まれ育った地元の土を使ってやきものが焼けないかということだった。

昔、稲城には玉川焼というやきものがあった。さらにさかのぼると縄文土器が多く発掘されている土地でもある。

ならば必ずやきものに使える土があるはずだと信じ、彼は土探しを始めた。

市内のいたるところに粘土層はあるが、1250度という焼成温度(焼き締め=炻器を焼く温度)に耐えられる土はすぐには見つからなかった。しかしついに発見した。

一般的に○○焼と呼ばれるやきものは、その土地の土を20%以上使っていれば名乗ることができるが、彼の作る「稲城焼」は100%地元の陶土を使っているのが特徴だ。

稲城の土は鉄分が多く、非常に硬く焼き締まる。指先で弾くと「キーン」という金属音がした。

信楽焼や備前焼と同じく高温で焼き締めるため陶器と磁器の中間に位置する炻器と分類してもいいかもしれないが、彼は水漏れ防止のためうつわ表面に薄く釉を施している。

地味で素朴な味わいから、酒器や花器、食器など中に盛るものを引き立てる効果のある、使い勝手の良いうつわである。

作陶以外にも地元で多彩に活動

濱住さんは空いた時間を使っては、地域の大型書店や文化センター、高校などで講演活動や陶芸指導をおこなっている。

内容は縄文時代までさかのぼった地域の歴史紹介や、会場にろくろを持ち込んでの陶芸体験など実に様々である。

例えば「うつわで楽しむお酒とごはん」という催しでは、作陶にまつわる話をしながら、自身が作ったうつわでその場でごはんを楽しんでもらうなど素敵な催しも開いている。

濱住さんの陶房と隣接するギャラリーは、すぐ裏に棚田と雑木林が広がる四季折々の風景が眺められるすばらしいロケーションだ。

いま知人でデザイナーの坂本氏に提案し、坂本&濱住と二人の姓と地元坂浜をもじって命名した「坂濱BASE」を建築中だ。

カフェと手作り作品の展示販売、ときにミニコンサートもできるアートスペースとしての活用を考えている。

坂濱ベース
坂濱ベース - 「いいね!」151件 - 坂濱BASEは東京都稲城市坂浜ある築50年の文化住宅の平屋です。 都内にありながら裏手は棚田と果樹園のロケーション。

福祉事業に夫人とともに携わる

東京都福祉保健局が運営する障害者自立支援事業にも同じく陶芸家の夫人とともに参加し、講師として週2回手作り陶芸の企画、作り方、販売までの指導をおこなっている。

障害者が作った作品は、都庁、大型百貨店など都内3か所のショップで売られている。

おしどり夫婦は奥様も陶芸家

奥様の濱住直美さんも実は陶芸家だ。陶歴はまだ6年だが、動物をはじめとするフィギュア陶芸家として活躍している。

その作品は陶芸ショップなどで販売され、好評である。

濱住真至(はますみ まさし)プロフィール 

陶歴
1977年 稲城市生まれ

1997年 陶芸家 川下 善靖氏に師事、画家 小根山 幸子氏に師事
2003年 陶芸家 花原 ひろ子氏に師事
2012年 第10回むさしの陶芸展『青緑彩壺』入選、『黒天目金彩壺』入選、陶芸財団展で『黒心』入選
2013年 東京都稲城市坂浜にギャラリーオープン。第11回むさしの陶芸展で、桜』入選、『黒裂炎』入選、陶芸財団展『地球憤怒』優秀賞受賞、第43回 全陶展『茶碗ー軌跡ー』入選

ギャラリー
〠206-0822   東京都稲城市坂浜3216

京王線稲城駅より徒歩15分
京王線稲城駅2番乗り場よりバス→「宮ノ台」より徒歩2分

※ギャラリーの定休日:木曜と金曜  
ご予約・お問い合わせは、✉メールにて受付中

作品

私が濱住さんを知ったのは地元にある大手書店のギャラリースペースで「稲城焼」の展示を見たことによる。

黒っぽい色調にややざらざらとした景色に、素朴さと郷愁を感じた。作品自体は地味だが、これはどんな料理や花も引き立たせる使い勝手の良いうつわだ。

ライターコラム

すぐに連絡を取り、ギャラリーを見せていただいた。多彩な造形と多種多様な釉薬に彩られた作品がそこにはあった。

個展での販売でなく注文販売が多いとのことだが、彼の作陶技術の高さと豊富な経験に裏打ちされていることがすぐに分かった。

作品の特徴は彼独自の釉薬調合による多彩な色調、さらに地元の土を100%使った派手さとは対照的な渋く趣きのある「稲城焼」にある。

まだ不惑の歳を過ぎたばかり。10年後、20年後の彼の活躍がとても楽しみだ。

我が家からクルマで5分と近いこともあり、今後何らかの形でコラボしていきたいと強く思った。

ライター 小暮貢朗