焼き物(やきもの)には大きく二つの役割があります。うつわとしての「使いやすさ」と「美しさ」です。
私たちは普通「この皿に料理をどう盛ったらいいか」などやきものの機能面に関心を持ちますが、他方でやきもの自体の形や色などその美しさに心惹かれることがあります。
この美しいと感じることが、「やきもの」を見るうえで最も大切な感覚なのです。単にうつわに使い易さだけを求めるなら、100円ショップの量産品で十分です。
しかし、そんな機能面にだけとどまらずに、うつわ自体に美しさを感じ、使ってみたいと思うやきものに巡り合えることは素晴らしいことです。
やきもの(陶磁器)を見るポイント
では、どのようにして感性を磨けばよいのでしょうか。日頃から多くのやきものを見ることです。
美術館や陶芸ショップで名品に接し、またよく知っている人に聞いてみるの一つの手です。
陶磁器に触ってみる
絵画や彫刻などの美術品ではないので、持ち主やお店に了解を取ったうえで、まず触ってみることです。
やきものは土からできているので、金属やプラスチックと違い、手で触ってみるとその温もりが伝わってきます。
見る角度を変えぐるりを回してみても、何か新しい発見に出会えるようなときめきを感じられるかもしれません。
陶磁器を使ってみる
やきものを手にしたときは、そのうつわに料理が盛られ、食卓に並べられた様子を想像してみましょう。
花入れなら実際に花を活けたときの情景を思い描いてみましょう。
やきものの魅力は料理や花と一体となって完結する美しさや楽しさがあります。
逆にやきものとしていくら素晴らしい作品でも、料理や花と合わせてみると、見栄えが悪いケースもあります。
これは実際に使ってみて、試行錯誤を繰り返し学んでいくしかありません。
柳宗悦氏が民芸運動で唱えた「用の美」ではないですが、鑑賞陶器ではなく日常使いのうつわの美しさにも心を動かされます。
陶磁器の値段にとらわれない
陶磁器店に行くと、同じ種類の一点物でも作家により値段がかなり違います。
例えば同じ志野の抹茶茶碗でも、新進作家のものが3万円、名が売れた作家のものが30万円などです。
確かに名の売れた陶芸家の作品は芸術性に優れ、技術は高い作品です。無名の作家の作品はまだ作品も発展途上です。
しかし、どの作品を選ぶにしても、どこに美しさを見い出すかはあなた次第です。
値段が高いものが必ずしも良いものとは限りません。自分のセンスを磨き、自分の気に入った作品を選びましょう。
陶磁器の知識を持つ
豊かな感性を養ってよいやきものを見分けるには、やきものに関する基礎知識を知っておいた方が良いでしょう。本で学んだり、お店の人にいろいろ聞いてみたり、美術館を回ったりするのもよいでしょう。
やきものに積極的に接することで、自分のやきものに関する感性が磨かれ、次第にやきものの本質的な素晴らしさがわかってくるのです。
やきもの選びのポイント
最終的には個人の好みによりますが、いくつか押さえておいた方が良いポイントを挙げてみます。
陶磁器をライフスタイルに合わせて選ぶ
子供が小さいときは、少し値段が安い実用的な食器が良いでしょう。
一人で食事を楽しんだり、夫婦二人でリッチな食事を楽しむなら、ちょっと値が張っても豪華で気に入ったうつわがお薦めです。来客用に少し大きめの大皿や中鉢を揃えておくと便利です。
陶磁器を買う前に用途を決めておく
衝動買いも必ずしも悪くありませんが、事前に何に使うか決めておいた方が、後で後悔することがすくないです。
例えば熱いものを入れるうつわを探しているのなら、熱を伝えにくい厚めの陶器を選びましょう。
夏のうつわを揃えたいなら、涼しげな染付や白磁のうつわが良いでしょう。
最初は飽きのこないシンプルなうつわから
家庭で和食、洋食、中華など何にでも使えるシンプルな食器から買い始めるのが良いでしょう。
その後、少しずつ自分の好みや用途に合わせて、買い揃えるのが無難です。
陶磁器は必ずしもセットでなくてもよい
家族が4人だからとすべて4脚セットを揃える必要はありません。色違いも面白いし、形が少し違っても色でそろえるのも良いでしょう。
食器セットでなくても大きさがほぼそろい、どこか共通する雰囲気の食器なら、それがかえって楽しい趣向になります。セットの食器の1脚が壊れても工夫次第で、いくらでも楽しめるのです。
遊び心のあるうつわも面白い
例えば、向付けなどは形がオシャレなものが多く、食卓に華やかさを添えてくれます。
飯碗と箸、箸置き、湯呑みなどは季節によって使い分けるのも面白いです。
良い陶磁器店を探し、多くのうつわを見る
良いうつわとめぐり会うには、目を肥やすことです。いろんなうつわを見て、使ってみることです。
旅先の高級旅館や懐石料理店に行くことがあれば、よいうつわを確認できるチャンスになるかもしれません。
自分が好きなうつわが見つかるかもしれません。
陶磁器は大きさを考え、丈夫で扱いやすいものを選ぶ
洋食器と違い和食器は手で持つことが多いので、大きさや重さ、持ちやすさが選ぶ条件になります。
買う前にあらかじめ収納する場所から、うつわのサイズを確認しておきましょう。
実際に持って重すぎないか、持ちやすいかなどもチェックしましょう。
陶磁器は手触りや口当たりも確認しましょう
手に取って手触りの良しあしを調べ、コーヒーカップや湯呑みは直接口に当てて感触をチェックしましょう。
またうつわのバランス、持ちやすさも重要です。
蓋物はつまみの持ちやすさや落としの部分の収まり具合も確認しましょう。
陶磁器の使い方のポイント
うつわを上手に使うためには、まず手持ちのうつわを総点検してみましょう。
現在持っているうつわとの組み合わせを考えて新しいうつわを買えば、品揃えに無駄がなくなり、効率的に組み合わせを楽しむことができます。
陶磁器は同じうつわを使いまわす
料理や用途ごとにうつわを揃えるのは数ばかり増えて収納も大変です。一つのうつわを何通りにも使えればとても重宝です。
例えば、気に入ったそば猪口を湯呑みや小鉢、蒸し碗に使うのも手です。自由な発想で使いまわすのも意外な発見があって、楽しいかもしれません。
陶磁器は取り合わせを工夫して使う
いつもお気に入りのうつわだけ使うとか、食器のセットものばかりを使わなくても、趣の違ううつわを組み合わせることで、より食卓に彩りが加わります。
例えば、陶器と磁器を組み合わせたり、染付と色絵、赤絵と粉引などを組み合わせても面白いでしょう。
さらに緑の鮮やかな織部や白い志野などを加えてアレンジすることで、一層味わい深い食卓を演出できるでしょう。
文:小暮貢朗